長芋(ナガイモ)の特徴と栄養成分・期待できる健康メリットとは

食べ物辞典:長芋

とろろご飯や「山かけ」などでお馴染みの長芋。千切りにしてサラダ、バター焼き、お好み焼きのつなぎに使ったりと、実は活用幅も広いお野菜です。ネバネバの元である糖タンパク質は水溶性食物繊維として働くので、お腹の調子を整えることで健康メリットも期待できますよ。そんな長芋に含まれている成分や栄養効果を紹介します。

長芋のイメージ画像:食べ物辞典トップ用

和名:ナガイモ
英名:Chinese yam / Nagaimo
学名: Dioscorea polystachya

長芋(ナガイモ)とは

長芋のプロフイール

すり下ろすとそのまま使える“とろろ”に、カットしてサラダや酢の物に、バター焼きや炒めものなど様々なレシピに使われる長芋。粘り気のあるヤマノイモ属の“イモ”の中では粘り気が少なく、水分が多いサクサクした食感が特徴的な食材です。

古くは昔は滋養強壮や強精=男性が好むという印象を持たれていましたが、近年ではネバネバ食材が健康に良いこと・ダイエットや美肌作りなど美容面での効果が期待できることが注目され、女性にも親しまれています。オクラヤマイモなどを使ったネバネバサラダはカフェやコンビニでも見かけますね。

スーパーなどでも通年販売されている長芋。植物としてみると、長芋はヤマノイモ科ヤマノイモ属に分類されています。ヤマノイモというと自然薯(山の芋)を思い浮かべてしまいますが、実はヤマノイモと長芋は同属別種。日本原産の山の芋、自然薯やトロロイモと呼ばれるものは学名Dioscorea japonicaナガイモ類は学名Dioscorea oppositaと分かれています。

長芋は英語で「チャイニーズヤム(Chinese yam)」とも呼ばれるように、中国が原産。自然薯などは日本原産の“ヤマノイモ”類は収穫量が少なく、天然物は極めて希少。自然薯とも長芋とも別の“山芋”として、大和芋やつくね芋が紹介されていることもありますが、これらも種としてはナガイモ(Dioscorea opposita)に含まれていて、それぞれ品種群という形で分けられています[1]。現在日本で食用されるヤマノイモ属ではナガイモ類が大半、特に細長い形状であったりとした食味の長芋が多くなっています。

ナガイモ(Chinese Yam)類の種類について

ナガイモ類は形状から大きく3つの品種群に分類されており、流通数が最も多いのが“長形種(ナガイモ群)”と呼ばれる形です。一般的に長芋と聞いてイメージする縦長で表皮が薄茶色のものがこれに当たります。そのほかに、仏掌芋・関東で大和芋と呼ばれる偏形種(イチョウイモ群)、伊勢芋・関西で大和芋と呼ばれる塊形種(ツクネイモ群)があります。関西と関東で呼び方が逆転しているので、こちらもややこしいですね。

形状から見た場合はツクネイモ群はジャガイモのような形なので分かりやすいですが、イチョウイモ群の品種の中には長芋に近い棒状のものもあります。北海道や東北ではナガイモ群、関東ではイチョウイモ群、関西や近畿ではツクネイモ群の品種の栽培が多いとも言われています。

ナガイモ群

ナガイモは、細長い形状が特徴。ナガイモ類の中でも流通量が多く馴染みのある存在です。最も水分量が多く粘り気が少ないためサラダ・酢の物・炒め物・揚げ物など様々な調理法に利用できますし、価格も比較的安価なのがメリットと言えるでしょう。とろろにする場合は他のヤマノイモ類のように伸ばす必要がなく、そのまま利用することができます。

イチョウイモ群

平べったい形状が特徴のイチョウイモ。地域によっては大和芋とも呼びますが、紛らわしくなるのでイチョウイモの方で統一させていただきます。

イチョウイモは呼び名の通り銀杏の葉のように平たく広がった形状をしているものが多く、一般的な長芋よりも粘り気が強いので擦りおろして“とろろ”状態にすると強い粘度が出ます。山かけなどに使う場合は出汁で伸ばして調整しますが、基本的な風味や食感はナガイモに近い存在です。

ツクネイモ群

ジャガイモのような丸みの強い形状が特徴で、ナガイモ類の中ではもっとも粘り気が強く濃厚と言われています。軽羹やお饅頭などの和菓子原料としても利用されており、汁ものに入れる・磯辺焼きにするなどお餅感覚でも利用されています。とろろにする場合は粘りが強いので、出汁などを加えて伸ばして使うことが多いようです。

表面が黒っぽい“大和いも”や、白皮でアクの少ない“伊勢芋”などが代表的です。奈良の大和いもは「大和野菜(大和の伝統野菜)」にも認定されています。どちらも親芋の下に子芋が形成され、小芋が大きくなると親芋を背負う形になることから「孝行いも」などとも呼ばれており、円満な家庭を象徴する縁起物としておせち料理などにも使われます。

長芋の選び方・保存方法

長芋を選ぶ時は表皮に大きな傷がなく、ハリ・ツヤがあるものを選びます。ふっくらと丸みのある形状で真っ直ぐに伸びているものが美味しいと言われています。水分量が多い野菜でもありますから、瑞々しさがある・手に持った時にずっしりとした重みを感じられることも気にしたいポイント。カットされているものであれば切り口の色の白さ・瑞々しさが確認しやすいので分かりやすいですね。

保存時は乾燥しないように新聞紙で包んでからポリ袋などに入れ、冷蔵庫もしくは冷暗所へ。使いかけのものであれば、切り口から酸化・乾燥していかないようにラップでぴったりと密閉してから保存してください。丸ごと・千切りなどカットしたもの・すりおろしたもの、どの状態でも冷凍できます。

長芋(ナガイモ)の栄養成分・効果について

栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2020年版(八訂)

長芋は亜鉛・カリウム・鉄などのミネラル成分、ビタミンB群・ビタミンC、食物繊維などを幅広く含む、栄養価の高い食材です。内蔵の機能を高めてくれるコリン、サポニン、アルギニンなども含まれていることから、現在でも疲労回復やスタミナ食として愛されています。粘り気の元であり、健康メリットが期待されているとなっている多糖類(糖タンパク質)や消化酵素も含まれています。

長芋イメージ

同じナガイモ類でも品種系統により若干の差はありますが、以下では日本食品標準成分表2020年版で“(やまのいも類)/ながいも/ながいも/塊根/生”として掲載されている栄養成分含有量をベースに紹介させて頂きます。長芋はナガイモ類のなかでも水分量が多く、カロリーは100gあたり64kcal、炭水化物量も芋類の中では低めです。

長芋の効果効能、その根拠・理由とは?

便秘予防・お腹の調子を整える

長芋の生100gあたりの食物繊維含有量は1.0g。
野菜類やイモ類の中でも、さほど多い部類ではありません。それでも長芋が便秘予防・便秘対策として取り入れられることが多いのは、水溶性食物繊維の比率が比較的多いことが考えられます。また、長芋の“粘り気”の元となっているムチレージ(Mucilage)と呼ばれる植物性粘液質は、糖タンパク質であり、水溶性食物繊維が含まれています[2]。

水溶性食物繊維は水に溶けてゲル化する性質がありますので、保水作用で便に水を含ませて柔らかく保つだけではなく、便が水っぽい時には水分を含んで柔らかく固める働きもあります。善玉菌の増殖を助け腸内環境をサポートすることからも、腸の蠕動運動を正常に保って便秘や腹部膨満感の軽減に繋がるでしょう。

このため、長芋は水溶性食物繊維の補給源として、便の硬さを調節、腸内善玉菌の餌になることで善玉菌の増殖を助け腸内フローラを整え、お腹の調子を整えるサポート食材として期待されています。

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消化吸収のサポートにも期待

長芋は民間療法のなかで消化機能促進や咳・喘息のケアに使われてきた食材。また、東洋・西洋どちらの伝統医療でも、植物粘液ムチレージ含む粘り気のある食材は、粘膜保護に役立つと考えられてきました[3]。とは言え、実際のところ、ネバネバした長芋を摂取することで粘膜の強化・修復に役立つのかは分かっていません。

消化機能のサポートに関しては、ムチレージの摂取だけではなく、水溶性食物繊維の補給による腸内環境の改善からも良い影響が期待できます。長芋には代謝にかかわるビタミンB群も含まれていますから、お腹の調子を整える・栄養吸収促進に繋がる可能性はあります。

血行不良・ダイエットサポートに

長芋にはアミノ酸の一種であるアルギニン、渋み成分のサポニンなどが含まれています。アルギニンは血管を拡張させる一酸化窒素の合成酵素のため、血管が拡張されることで血流を促進します[4]。サポニンは抗酸化作用があり、酸化を抑えることで血管をしなやかに保ち、血液をスムーズに循環させることにも繋がります。血液循環が悪いことに起因する冷え性や、代謝低下による肥満の予防にも期待できます。

加えて、アルギニンには成長ホルモンの分泌を促す作用も報告されています[4]。成長ホルモンの分泌を正常に保つことは、脂肪燃焼促進にも繋がるでしょう。適度な運動と組み合わせて長芋を摂取することで、ダイエットの効果が出やすくなったり、太りにくい体への体質改善に役立ってくれるでしょう。

そのほか、長芋に含まれているムチレージ・水溶性食物繊維には、一緒に摂取した食物(糖質)の吸収スピードを遅らせる働きあります。食後血糖値の急上昇を抑えることでインスリンの多量分泌を予防し、インスリンによって糖が脂肪に蓄えられることを抑制することにも繋がるでしょう。血糖値上昇抑制の面からも、長芋はダイエットをサポートしてくれる可能性があります。

血糖値対策・生活習慣病予防に

食後の急激な血糖値上昇を抑えるのは、肥満予防だけではなく、糖尿病予防にも役立ちます。長芋自体も水分量が多く、生100gあたりの13.9gと炭水化物量はイモ類の中で少ない部類。とろろご飯にして掻き込むような食べ方は要注意ですが、食べ方によっては糖質オフにも役立ってくれます。

長芋には100mgあたり430mgとカリウムも豊富。カリウムは過剰なナトリウムの排泄を促すことで、血圧上昇やむくみを軽減する働きを持つミネラルです。血流を助けるアルギニン、抗酸化作用のあるサポニンの補給と合わせて、高血圧や動脈硬化などの予防にも一役買ってくれそうですね。水溶性食物繊維はコレステロールを排出させる働きも期待されています[2]から、血圧・血糖値・コレステロールが気になる方のお食事に取り入れてみても良いでしょう。

免疫力アップ・風邪予防に

長芋に含まれているアミノ酸の一種アルギニンは、摂取すると体内で免疫細胞(マクロファージ)を活性化する可能性が示唆されている成分[4]。サポニンにも免疫機能をサポートする可能性が報告されています。腸内環境を整える手助けをしてくれることも、腸にある免疫システムの働きを整えることに繋がります。このため免疫力を高める働きも期待できます。

直接的な免疫系への働きかけだけではなく、長芋は消化・栄養吸収をサポートしてくれる可能性がある食材でもあります。食べたお食事の栄養を効率よく消化吸収する=スタミナ増強や疲労回復にも繋がります。体力を付けて体を丈夫に整えて抵抗力を底上げすることもまた、風邪やインフルエンザ予防のサポートとして役立ってくれるでしょう。

アンチエイジング・美肌サポートにも

長芋にはサポニン・ビタミンE・ビタミンCなどの抗酸化物質が含まれています。肌老化の予防もサポートしてくれるでしょう。サポニンやアルギニンによる毛細血管拡張・血液循環促進も、お肌までしっかりと血液(栄養)と酸素を行き渡らせることいに繋がります。抗酸化作用と合わせて、血行不良によるクマ・くすみ・乾燥などの改善にも期待できます。

便秘改善・腸内フローラが整うことで、腸内老廃物から発生する有毒物質(毒素)の減少や、腸内善玉菌によるビタミン合成促進など、肌荒れの予防・改善をサポートしてくれる可能性もあります。そのほか、天然保湿因子(NMF)の構成物質であるアルギニンの補給は肌の保湿、綺麗な血液がしっかりと行き届くことで肌の新陳代謝(ターンオーバー)を整える働きも期待できます。

美肌作りやアンチエイジングにダイレクトに繋がる、特徴成分と言えるような成分は長芋には含まれていません。しかし、栄養バランスや腸内環境を整えることで、健康な肌を保つのにも役立つでしょう。

ヤマノイモ類の栄養的特徴

上記でご紹介した長芋(ナガイモ群)以外の、ヤマノイモ類の栄養価的な特徴を簡単に紹介します。

ちなみに、ナガイモはヤマノイモ類の中で最も水分量が多く、カロリーも100gあたり65kcalと低め。は食物繊維量やビタミン・ミネラルの含有量も低い傾向にあります。唯一カルシウム含有量が100gあたり17mgと三種のナガイモ類の中で最も多くなっています

イチョウイモ群の特徴

イチョウイモはビタミン・ミネラル・食物繊維量が概ねナガイモよりも多くなっています。カロリーも100gあたり108kcalとやや高め。100gあたりのタンパク質量も多くアルギニンの含有量も多くなっていますので、疲労回復や強壮などにより高い効果が期待できるでしょう。食物繊維含有量は100gあたり1.4gですが、不溶性食物繊維0.8g:水溶性食物繊維0.6gと水溶性食物繊維の割合が多いので整腸・腸内フローラの改善などにも役立つと考えられます。

ツクネイモ群の特徴

ツクネイモは水分量が少なく、カロリーはナガイモ類の中で最も多く100gあたり123kcalです。タンパク質量はイチョウイモと同じく4.5g・炭水化物量が三種の中で最も多い27.1gとなっています。ビタミン類はイチョウイモに劣りますが、ミネラル含有量が高い傾向にあり、また食物繊維総量も100gあたり2.5gと多く含まれています。

ヤマイモ/自然薯類の特徴

山芋は100gあたり121kcal。長芋の倍近いカロリーがありますが、ビタミン・カルシウム含有も概ね多くなってなっています。特に差が大きいのは長芋の約2.5倍ビタミンCを含んでいることと、ビタミンEが100gあたり4.1mgと長芋0.2mgと20倍以上もの数値になっているということ。

100gあたりの食物繊維総量で見ると山芋は2.0gと長芋(1.0g)の2倍す。食物繊維の比率も山芋の場合は不溶性1.4g・水溶性0.6gであるのに対し、長芋は不溶性0.8g・水溶性0.2gと差があります。腸内環境を整えたいなど、水溶性食物繊維を多く補給したい時にも適しているでしょう。

目的別、長芋のおすすめ食べ合わせ

長芋(ナガイモ)の食べ方・注意点

長芋は生食用に切る・摺り下ろすなどしてして置いておくと赤黒く変色してしまいますが、これはアクの成分であるポリフェノール系物質ドーパミン(3,4-ジヒドロキシフェニルエチルアミン)が酸化するため。すぐに食べない場合は酢水・レモン汁などにつけて参加を防ぐようにしておきしましょう。ちなみにドーパミンとは呼ばれていますが薬物的な心配はありません。

長芋にかぶれた時は…

長芋に触れた時に痒みを起こす原因は、針状の結晶を持つ「シュウ酸カルシウム」が皮膚を刺激するため。シュウ酸カルシウムは長芋表皮に近い部分に多く含まれているので、厚めに皮を剥くと痒みを軽減できます。

またシュウ酸カルシウムは酢に溶けやすい性質があるため、痒みを感じた時は手を薄めた酢・レモン汁などで洗うという対策もあります。色をキレイに保つのにも、痒み止めにもなりますので、長芋調理の時は予め酢水を用意しておくのがオススメです。

ただし、あまりにもひどくかぶれたり、気分が悪くなるような場合はアレルギーの可能性もあります。症状が重い・不安を感じる方は医療機関で診療を受けてください。

【参考元】