ハトムギ/はと麦の特徴と栄養成分・期待できる健康メリットとは

食べ物辞典:ハトムギ

健康茶に配合されていることも多く、“食べる生薬”と称される食材の一つでもあるハトムギ。古くから民間療法の中で強壮剤や利尿剤、時にはイボ取りの薬としても使われてきた植物です。穀類としてはタンパク質やビタミンB1が多く含まれていおり栄養補給にも役立ち、抗酸化作用や抗炎症作用などを持つ可能性も示唆されています。ただし、伝統医療上の“効能”については研究数も少なく分かっていない部分も多い食材です。そんなハトムギについて、栄養価や期待されている健康メリットについて紹介します。

ハトムギのイメージ画像:食べ物辞典トップ用(slowbeauty)

和名:鳩麦(はとむぎ)
英名:Job’s tears/adlay millet
学名:Coix lacryma-jobi var. ma-yuen

ハトムギとは

茹でたり炊いて食べる穀物というよりも“はと麦茶”や“十六茶”など健康茶、もしくはその原料として名前を見かけることが多いハトムギ。近年はハトムギローションなど自然派のスキンケア商品も人気ですね。また、ハトムギは伝統医療・民間医療の中で薬として使われてきた歴史もあります。生薬名は薏苡仁(ヨクイニン)で、いぼ取り化粧品、滋養強壮やむくみ対策などの健康食品にも配合されています。このため“食べる生薬”の1つとして薬膳レシピではハトムギを使ったものもありますね。

ハトムギは日本の食生活において主食・穀類以外の用途で使われることが多い穀類。ですが、タイなど東南アジアから東アジアの国々では蒸したりお粥のようにして主食として食べる地域もあります。粉にしてパンのように焼いて食べたり、茹でたものをスナック感覚で食べることもあるようです[1]。そのほか甘いデザートスープを作る、タピオカ感覚でドリンクに入れたり、デザートにトッピングするなど、スイーツの材料として使われることもあるそう。健康茶として飲むだけではなくハトムギを原料にしたお酒があったりと、様々な場面で使われている食材。ハトムギは古代から東南アジアを中心に食されてきた穀物なのです。

また、近年は欧米でも、グルテンフリーかつ栄養面でも優れた穀物の一つとしてハトムギ/ジュズダマが注目されています。キヌアと同じような感覚でスープやサラダにトッピングして食べている方もいらっしゃり、英語で検索してもレシピが結構出てきますよ。ハトムギは茹でてもお米のようにドロドロに溶けにくく、冷やしても固くなりにくいです。このためコメの扱いに慣れていない方にとっては使いやすく、サラダや冷たいドリンク・アイスなどにいれてもパサつきにくくモチモチした食感を楽しめるという点も取り入れやすいポイントなのかもしれません。

日本でも手軽な健康食材としてハトムギが注目されており、お菓子作りなどに利用しやすいハトムギ粉・ハトムギを原料としたシリアルなどの商品も販売されています。流通量は少ないですが、上白糖よりも栄養価の高い「ハトムギ糖」という甘味料などもあります。精白したハトムギをお米にませて一緒に炊くという食べ方が最も手間がかからないですが、他にも様々な食べ方が出来る食材。タピオカのカロリーが気になるときに茹でたハトムギを加えてみる、サラダ混ぜる、ハトムギぜんざいを作ってみる…など様々なアレンジが出来そうですね。

ハトムギは麦?

ハトムギは、植物としてはイネ科ジュズダマ属に分類されています。
擬似穀類ではなくれっきとした穀物なんですね。

ただし、“麦(ムギ)”とは付くものの、パンや麺の原料として主に利用される小麦はコムギ属(Triticum)、食物繊維の多さが注目されている“麦ご飯”の原料である大麦はオオムギ属 (Hordeum)とそれぞれ別属。余談ですが、ドイツパン・黒パンの原料として知られるライ麦はライムギ属(Secale)、オートムギやオーツ麦と呼ばれオートミールやシリアルの原料などに使われる燕麦はカラスムギ属(Avena)と、呼び名に“麦”が付けられている穀物のほとんどが別属。同じイネ科の植物の中では、ハトムギは大麦や小麦よりも“トウモロコシ”に近いという見解もあります。

ハトムギが属すCoixがハトムギ属ではなくジュズダマ属と呼ばれているのは、ジュズダマ(学名:Coix lacryma-jobi)と呼ばれる原種が存在するため。ハトムギはこのジュズダマが栽培されていく中で誕生した変種なのです。この2つの種はうるち米・もち米の違いと同じように、ハトムギは糯性(モチ性)・ジュズダマは粳性(ウルチ性)とデンプン質に違いがあります[2]。またハトムギは指で簡単に種の殻をむくことが出来ることも特徴です。ちなみにジュズダマという呼称は、種が固く中心に穴が開いている=ビーズのように使用でき、かつては数珠の玉として使っていたことが由来[1]。ハトムギはそのまま、ハトが好んで食べる麦(のような植物だった)ためです。

ハトムギの栄養成分・効果について

栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2020年版(八訂)

ハトムギはタンパク質が占める割合が100gあたり13.3gと、同グラムの精白米の2倍以上も含まれています。スーパー穀物とも言われるキヌアと比べるとやや劣るものの、穀類の中ではタンパク質含有量が高い食材と言えるでしょう。また食物繊維量も精白米と比べるとやや多く、ビタミンB1、鉄、マグネシウムなどのミネラルも若干含まれています。

ハトムギのイメージ画像

ハトムギの効果効能、その根拠・理由とは?

疲労回復サポート・滋養強壮

民間医療の中でハトムギ=薏苡仁(ヨクイニン)は滋養強壮効果を持つ食材として利用されてきました。江戸時代に『大和本草』を記した貝原益軒は病後や産後の体力回復にハトムギを処方していたという逸話もありますし、体力が低下している時にお米の代わりにハトムギを使った重湯・お粥を食べるという風習もあります。

栄養価の面で見ても、ハトムギは穀類としてはタンパク質が多く、同グラムの精白米と比べると2倍以上のタンパク質を含む食材。タンパク質を構成するアミノ酸も多く、必須アミノ酸の補給にも役立ちます。極めて豊富というわけではありませんが、精白米と比較すると脂質代謝に関わるビタミンB2も多め。ご飯に混ぜて炊くなど、食事に取り入れる事で代謝を高める手助けをしてくれる可能性はあるでしょう。代謝を促すことで疲労物質の蓄積予防や分解(代謝)促進にも繋がると考えられます。

むくみ・便秘対策

ハトムギは伝統医療・民間療法の中で、利尿効果を持つ食材として使われてきました。漢方でハトムギ=薏苡仁(ヨクイニン)は利水滲湿薬に分類され、水分代謝を整えることから利尿薬のような形で利用されることもあります[3」。水分貯留が原因とされる雨の日に痛む頭痛・体のだるさ・重さの改善に良いという説もあるほど。

2009年に『Journal of Agricultural and Food Chemistry』に掲載された論文ではハトムギに抗ラジカル、抗酸化、および抗炎症活性が見られたことが報告されています[4]。ハトムギはフラボノイドやクロロゲン酸などポリフェ―ノールを含み、抗酸化作用を持つことが確認されていますので、こうした必須栄養素以外の成分が何らかの作用を持っている可能性はあるでしょう。しかし、ハトムギの利尿や循環効果については医学的に認められたものではありません。研究自体も少なく、どのような作用があるのかは分かっていませんので過度な期待は避けましょう。

必須栄養素で見ても、カリウムなどの利尿に繋がる栄養成分含有量はさほど多くありません。ハトムギは便秘・むくみに良いデトックス食材という声もありますが、食物繊維量についても100gあたり0.6g。白米よりは多いものの大麦やもち麦などと比べると劣るくらいの含有量です。若干の食物繊維が取れること、抗酸化作用や代謝促進などによって体本来が持つ機能が回復する可能性があるという考え方が妥当でしょう。

肥満・糖尿病予防

利尿・水分代謝を高める目的で伝統的に利用されてきたハトムギ。現在でスリムな身体をキープしたい女性のお供として、健康茶や雑穀の一つとしても取り入れられています。ハトムギ100gあたりのカロリーとしては360kcalと白米とさほど変わりませんが、炭水化物量が若干少ないことやビタミンB群が多いことなどを考えると、ダイエットサポート向きの食材と言えるかもしれません。

また、ハトムギ(薏苡仁)は東洋医学の中で伝統的に糖尿病のケアにも処方されてきました。現在でも中国を中心に研究が行われており、ラットを使った実験では血中コレステロールの低下や血糖降下作用がみられたことが2006年『International Journal for Vitamin and Nutrition Research』に発表されています[5]。

こうした研究や抗酸化作用が見られたことも合わせて、血糖値対策・生活習慣病や糖尿病予防としてもハトムギは期待されています。血糖値上昇が抑えられれば、インスリンによって余った糖が脂肪に蓄えられるのを抑制する=肥満予防にも繋がる可能性もありますね。

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アレルギー・炎症緩和にも期待

薏苡仁(ヨクイニン)は伝統的に、アレルギーなどの炎症ケアにも内服・外用両方で使用されてきた植物です。現代の研究でも抗酸化作用と抗炎症作用が見られたことが報告されています[4]し、動物実験では関節リウマチや足のむくみにも有益な作用を示したことが2018年に発表[6]されています。まだ有効性が断定できる状態ではありませんが、民間療法での使用が迷信ではない可能性もあるでしょう。

肌荒れ・ニキビ予防

ハトムギは“食べる美容液”と称され、食べることでも美肌維持・イボや肌荒れ改善に効果が期待されています。古くはハトムギは溜まってしまった水分や老廃物の排泄を促し、代謝を高めることで肌を整えると言われてきました。現代でもハトムギに含まれるグルタミン酸、ロイシン、チロシン、バリンなどのアミノ酸は血流やリンパ液の流れをサポートする働きがあると考えられています。

ストレスや加齢によってターンオーバーが乱れてしまうと角質層が厚くなり、肌のザラつきや保湿機能の低下による乾燥、毛穴詰まりによるニキビ発生などの原因となります。新陳代謝を高めて肌のターンオーバーを正常化させることで、ニキビや乾燥などの肌荒れ予防にも繋がるでしょう。また、ハトムギに直接的にメラニン色素生成阻害などの働きはありませんが、肌コンディションを整えターンオーバーを促すことから美白サポートにも取り入れられます。

イボ・肌荒れ予防にも

ハトムギには“Coixenolide(コイクセノライド)”という成分が含まれており、腫瘍抑制作用が報告されています[7]。このことからポツポツ・イボなどの予防改善にも効果が期待され、サプリメントなどの配合成分にも使われています。抗酸化作用・抗炎症作用をもつ可能性も示唆されていることから、アトピー性皮膚炎の緩和に役立つのではないかという説もあります。

目的別、ハトムギのおすすめ食べ合わせ

ハトムギの食べ方・注意点

ハトムギを使ってよく作られるのがお茶とお粥。粥にする場合には、ハトムギの量の7倍程度の水で2時間~1晩浸した後に煮ると食べやすいです。もっと手軽に食べたい場合はハトムギ量の10~20倍の水を加えて、弱火で一時間ほど煮た“ハトムギスープ”という方法も。あまり味はしませんが、お茶とお粥の中間位の感覚です。

食べにくい場合は、お米に混ぜて雑穀米のようにして食べるのがオススメ。パエリアやリゾットのように味をつけると更に食べやすくなるでしょう。そのほかにハトムギ粉はクッキーなどの焼き菓子にも活用できて便利ですが、販売店はあまり多くありません。ハトムギ茶のほうが圧倒的に普及していますね。

ハトムギの注意点

中医学的にハトムギ(ヨクイニン)は身体を冷やす食材と考えられており、冷え性の方・妊娠中の方の場合は摂取を控えたほうが良いとされています。殻付きハトムギ温水抽出エキスに関しては冷え性の改善に対して有効性があるという報告もありますが、食材として一般的に用いられるものは外殻が外されていますので効果は期待できません。通常の利用では体を冷やす心配はほとんどないと言われていますが、冷え性の方は過剰に食べ過ぎないように注意したほうが良いでしょう。

ハトムギの効能や期待できる効果として“月経困難症の緩和”というものがあります。しかし、こちらもハトムギの外殻に子宮収縮を抑制する可能性があるとは報告されているものの、有効性があると考えられるのは外殻部分。食材として脱穀・精白されたものを摂取する場合、あまり期待しない方が良いでしょう。

ハトムギの鉄分含有量について

ハトムギは鉄分が豊富で貧血予防に良いとする説もありますが、『日本食品標準成分表』に掲載されている数値としてはハトムギ100gあたりの鉄分含有量は0.4mg。白米の場合は100gあたり0.8g、玄米の場合は100gあたり2.1mgと、共にハトムギよりも多くなっています。このため、鉄分補給のために白米とハトムギを混ぜて炊く方法はお勧めできません。鉄分補給を第一に考える場合はアマランサスなどを取り入れたほうが確実でしょう。

【参考元】