アワビ(鮑/あわび)とその栄養成分・効果効能
|滋養強壮に役立つが、妊娠中の摂取には注意

食べ物辞典:アワビ

独特の磯の香りと、うま味は強いものの繊細で奥行ある味わいが特徴のアワビ。生で食べるとコリコリとした食感・加熱すると柔らかくもっちりとした食感を楽しめるのも魅力ですね。その食味は古くから日本人を魅了し、古代から貴族の食事や神様への捧げ物として利用されてきました。栄養面でもタンパク質が多く、タウリンやアルギニンなどのアミノ酸を多く含むため疲労回復や滋養強壮・二日酔い予防などに役立つと考えられています。しかしアワビの効果には微妙な俗説もあるため注意。そんなアワビの歴史や栄養効果について詳しくご紹介します。

焼きアワビのイメージ

和名:鮑(アワビ)
英語:abalone

鮑(アワビ)のプロフイール

アワビとは

見た目は少々グロテスクなものの、日本国内で言えば一二を争う高級貝類であるアワビ。好みにもよりますが高くとも奮発して食べたいと思う方が少なくないのではないでしょうか。味といい、価格といい、お刺身・酒蒸し・ステーキなど主役として利用されることが多いのも納得。ちなみに中国でも干鮑はツバメの巣・フカヒレと並んで三大食材とも言われる超高級食材で、日本で生産しているのになかなか入手できないという話もありますね。

鮑は美味しさももちろんですが、貝殻の内側が非常に美しい虹色の光沢を持つことからボタンやアクセサリー等に加工されたり、薄く切り出したものを螺鈿細工にと余すところなく利用されてきました。古くから神社でお供え用の器としても鮑の貝殻が用いられてきたそうですし、現代でも食器や小物入れ様などに販売されています。殻にまで値段がつくのは流石と言うべきでしょうか。

アワビは一枚貝で片方しか貝殻が内容に見えることから片思いなどの表現にも使われていますが、実は分類上“巻き貝”に属しています。より細かい分類としてはミミガイ科に属す大型の巻貝を総称して「鮑(アワビ)」と呼び、世界に約80~100種、日本には約10種類が分布しています。小型のアワビのような“トコブシ”はアワビではなく、アワビの仲間とされることが多いようです。

日本近海にいるアワビで食用とされるのは、最高級と言われる“クロアワビ(黒鮑)”ほか、大型で加熱用としてよく用いられるマダカアワビ(真高鮑)・かつてはクロアワビのメスと思われていたメガイアワビ(女貝鮑/赤鮑)・北海道や東北に生息しクロアワビの北方亜種と考えられているエゾアワビ(蝦夷鮑)の4種類です。食感にも違いがあり、一般的にクロアワビとエゾアワビはコリコリとした食感でお刺身など生食向き、マダカアワビとメガイアワビは身が柔らかく加熱向きと言われています。旬は基本的に夏と言われていますが、エゾアワビだけは11月以降と冬が旬になります。

他の海産資源同様に天然アワビも年々減少傾向にあり、アワビに関しては輸出国であった日本でもアメリカのアカネアワビやオーストラリアのウスヒラアワビなどが輸入されています。またアワビの仲間ではないものの食感が似ている通称チリアワビ(ロコ貝・ラパス貝)なども輸入されており、知らずに食べた人がアレルギー(アナフィラキシーショック)を起こすという問題も起きています。現在はアワビモドキもしくは貝の名称をきちんと生じするよう定められているそうですが、回転寿司点や安い食べ放題などではアワビとして供されているケースも有るようなので注意したほうが良いでしょう。

アワビの歴史

アワビも縄文時代の貝塚などから貝殻が出土しており、日本では先史時代から食用とされていたと考えられています。縄文時代には既に交易品として利用されていたという説もありますから、縄文・弥生の人々にとっても価値の高い貝であったのかもしれません。中国では秦の始皇帝が徐福に探すよう命じた不老不死の仙薬がアワビの殻(石決明)である・楊貴妃が美貌を維持するために好んで食べたなどの伝説もあるようです。また、かなり古くから神様への捧げ物としても用いられており、邪馬台国の卑弥呼もアワビを食べたという伝承もありますよ。

700年代になると日本の書物の中にもアワビの記述が多く見られるようになります。現代でも届かない恋を“磯の鮑の片思い”と表現することがありますが、この言葉も『万葉集』に収載された「伊勢の海人 朝な夕なに 潜つぐ 鮑の片思いにして」という歌が原点。またアワビから採れる天然の真珠(鮑玉/アバロンパール)について詠まれたものもあり、古くは“本真珠”というと鮑真珠を指していたそう。白玉・鮑玉が納めされたことを書いた木簡も残っているそうです。アコヤ真珠を白玉と呼んでいるように、アワビの真珠はオパールに似たブルーグリーン系の玉虫色の色調。宝飾品としてだけではなく、漢方薬としても用いられていたのだとか。

神饌や貴族への貢物としてもアワビは時代と共に重宝され、平安時代までには貴族の食べ物という認識が出来上がっていたようです。また奈良時代初期に編纂された『肥前国風土記』にはアワビの肉を薄く削いだものを伸ばしつつ干した“熨斗鮑”についての記述も残っています。長寿をもたらす縁起物として長く熨斗鮑は使われましたが、やがて簡略化され現在私達が目にする黄色い紙を長六角形の色紙で包んだものへと変化していきます。そのほか水引の結び方である“あわじ結び”も鮑結びとも呼ばれますから、贈答品と深い関わりがあると言えるかもしれません。

時代は貴族の時代から武士の時代へと変化しますが、縁起物を非常に大切にした武士たちからもアワビは重要な食材として愛されました。打鮑・勝栗昆布の3つは出陣の際の“三献の儀式”に欠かせないものとしてもよく知られています。ちなみにこの打鮑というのは熨斗鮑の別名で、製法としては同じもの。

江戸時代になってもアワビは貴重な贅沢品として珍重され、煎海鼠(いりなまこ)・鱶鰭(フカヒレ)と乾鮑(干しアワビ)は「俵物三品」して中国(清国)への輸出品としても欠かせないものでした。甲斐の国の名産である鮑の煮貝の成立も江戸時代初期と言われていますし、『本朝食鑑』や『料理物語』などには様々なアワビの調理法が記されているそうですが、おそらく江戸庶民にはなかなか手の届かない食材だったのでしょう。マグロやハマグリなどは時代とともに食材としての価値が変動していますが、アワビは現代に至るまで1000年以上“高級食材”として君臨し続けています。

鮑(アワビ)の栄養成分・効果について

栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)

アワビは100gあたり73kcalと比較的低カロリーで、脂質・糖質が少なく高タンパク質な食材です。タウリンをはじめアミノ酸類が豊富に含まれている他、ミネラルも幅広く含んでいます。栄養価が高いとは言われていますが、ビタミンAやビタミンC・ビタミンB1,B2,B6などの含有量はさほど高くありません。

アワビのイメージ02

鮑(アワビ)の効果効能、その根拠・理由とは?

肝臓サポート・二日酔い対策に役立つ

アワビの栄養成分として「タウリン」が取り上げられる機会が多いのではないでしょうか。タウリンは非必須アミノ酸の一種で、胆汁酸の分泌を促す・肝細胞の再生を促すなどの働きを持つ可能性が報告されている成分。ラットを使った実験ではタウリンに脂肪肝の中性脂肪を除去する働きが見られたことも報告されたこともあり、肝機能向上や脂肪肝・肝臓疾患予防など肝臓全体サポートに役立つのではないかと期待されています。

アワビのタウリン含有量は文献によって差異がありますし個体差も大きいと考えられますが、100gあたり450mg~950mg程度と推測されています。牡蠣ハマグリ・サザエなどは1,000mgを超えるものもあるとされていますので、謳われているように「貝類の中でナンバーワン」かは怪しいところですが、補給源としては十分に役立ってくれるでしょう。

またタウリンはアルコールの分解途中で発生する“アセトアルデヒド”の分解を助ける働きも期待され、二日酔い予防や回復用としても取り入れられている成分。タウリンの働きについては可能性段階のものが多いことも指摘されていますが、アワビには肝機能を正常に保つアルギニン、胃腸保護やアルコール代謝促進に働くことで二日酔い予防に役立つと考えられているアラニンやグルタミンなど、アミノ酸が豊富に含まれています。このためアワビをおつまみに食べることで肝臓の負担を軽減し、二日酔い予防にも役立つと考えられます。

疲労回復・スタミナアップに繋がる

アワビは水分を除き三大栄養素だけで見ると、タンパク質の比率が非常に多い食材です。バランスの問題からアミノ酸スコア自体は低めになっているものの、クエン酸回路を円滑に回すことで疲労物質の代謝を促すアスパラギン酸・尿素回路(オルニチンサイクル)にも関わりアンモニアの分解を高めることで疲労回復に効果が期待されるアルギニンなども含まれています。うま味成分として知られているグルタミン酸も肝臓以外の部分でアンモニアと結合して無毒化する性質があり、ぼんやり感や集中力低下など脳に起因する疲労感の軽減に効果が期待されています。

際立って多くはないものの、アワビは貝類の中では糖代謝に関わるビタミンB1も多い部類。アミノ酸類と相乗して疲労回復に役立つと考えられますし、アルギニンには筋力の維持・血流改善による代謝向上や男性機能強化などの働きも期待されています。アワビ、特に干しアワビは古くは精力増強にも用いられていたと言うのも納得ですね。代謝や筋肉アップを助けてくれる成分が豊富に含まれていますから、もちろん女性の場合であっても滋養強壮やスタミナアップに効果が期待できるでしょう。

デトックスやむくみ予防に役立つ

肝臓は血液中の毒素を濾過する役割を持っています。アルコールやカフェイン、脂質、糖分などの摂取が多いと肝臓がオーバーワークとなってしまい、本来持っている解毒作用も低下すると考えられています。タウリンは肝臓機能をサポートすることで解毒機能を高める=デトックス力向上効果も期待されています。アスパラギン酸もアンモニアの排出を促す働きによって肝臓の負担軽減に繋がる可能性があるため、デトックス(解毒)機能のサポートも役立つと考えられているわけですね。

加えてタウリンには筋肉の収縮力を高めることでむくみを改善する働きや、腸の蠕動運動を促す働きも期待されています。アスパラギン酸も尿の合成を促進することでアンモニア排出を助けると考えられていますから、デトックスと同時に利尿効果が期待できる成分でもあります。またアスパラギン酸はカリウムやマグネシウムの運搬を助けることで体液バランスを整える働きもあります。常な体液循環を保持するとされるマグネシウムもアワビには比較的多く含まれていますから、相乗してむくみ改善にも効果が期待されています。

疲れ目の軽減や、視機能をサポート

アワビ他魚介類に多く含まれているタウリンは目の網膜にも利用される成分で、網膜の光受容体(光を完治して脳に伝える細胞)に存在し網膜を刺激から守っています。有効性については分かっていない部分もありますが、目の負担軽減・疲労回復などに役立つ可能性があると言えますね。加えてタウリンには目の新陳代謝を活発にする・角膜の修復を助けるという報告もあるため、タウリンを豊富に含むアワビや牡蠣などの食品は、目の疲労回復や視機能改善などに効果が期待されています。

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貧血予防・冷え性の緩和に繋がる

同グラムで比較するとシジミアサリなどには劣るものの、アワビも100gあたり1.5mgと比較的多くの鉄分を含む食材です。加えて亜鉛・銅・ビタミンB12・葉酸と造血に関わる成分も満遍なく含まれています。アワビを食べれば大丈夫というものではありませんが、不足しがちな鉄分や亜鉛などの補給源として役立ってくれるでしょう。

またアワビに豊富に含まれているアミノ酸のアルギニンは体内で一酸化窒素を作り出すことで血管を拡張し、血流をスムーズにする働きが報告されています。抗酸化に関わるセレンやビタミンEなどの栄養素も過酸化脂質の生成を抑制することでスムーズな血液循環をサポートしてくれますから、鉄分などの補給と合わせて血行不良やそれに起因する冷え性の軽減にも効果が期待できるでしょう。

美肌やアンチエイジングにも

貝類はコラーゲンを含んおり、特に身の硬いものほどコラーゲンが多いと言われています。コリコリ食感のアワビもコラーゲンが非常に多い食材とされており、シワやたるみ予防などアンチエイジングに役立つ食材としても注目されています。アルギニンによって分泌が促進が期待される成長ホルモンも、肌の新陳代謝を促して修復を助けてくれる働きがあります。

また美容面だけではなくコラーゲンは腰痛や膝の痛みなどの軽減にも効果が期待されていますし、アワビには関節の痛みを和らげるとされるコンドロイチンも含まれています。抗酸化に関わるセレンやビタミンEなども含まれていますから、様々な面から老化・老化に伴う不調を軽減する効果が期待できるでしょう。

アンチエイジング以外にもアワビのビタミン類の中で多く含まれているビタミンBの一種「パントテン酸」は、脂質代謝を高めることで脂性肌やニキビを改善する・ビタミンCの働きを助けることで肌や髪を美しく保つなどの働きが期待されている成分です。豊富というほどではありませんが、アワビには肌荒れや口内炎予防に役立つビタミンB2・新陳代謝を助けるビタミンB6なども含まれています。肌荒れ予防・改善を期待するのであれば、アワビにはビタミンCがほとんど含まれていませんのでビタミンCの豊富な食材と食べ合わせると良いでしょう。またビタミンC・パントテン酸は副腎皮質ホルモン(抗ストレスホルモン)の分泌にも関与していますから、ストレス・ストレスに起因する肌荒れの緩和にも効果が期待できます。

目的別、アワビのおすすめ食べ合わせ

鮑(アワビ)の選び方・食べ方・注意点

アワビを選ぶ場合は肉厚のもの(殻がついている場合は殻が深いもの)と選ぶと良いと言われています。また活アワビであれば口が固く閉じている・触ると口が閉じるようなものが鮮度を見分けるポイントです。

アワビの肝について

独特の苦味があることからアワビの身よりも好き嫌いが分かれる“肝”。大人で、特にお酒を飲む方であれば肝醤油を使った「肝和えが最も美味しい食べ方だ」とおっしゃる方も少なくありませんね。また栄養面としても肝にはカジメとアラメなどアワビがエサとしている海藻の栄養も含まれているので美容や健康に良いと言われています。明確ではありませんが成分としては抗酸化作用を持つポリフェノール類・水溶性食物繊維として働くアルギン酸などが摂取できるという説もあり、アンチエイジングや生活習慣病予防に効果が期待されています。

ただし春先のアワビの内蔵部には、エサとなる海藻のクロロフィルに由来すると考えられるピロフェオホルバイドという成分が含まれています。このピロフェオホルバイドは光増感剤の一種で、摂取することで光過敏症と言われる中毒症状を引き起こす可能性があります。死に至ることは無いと言われていますが、発赤・はれ・水疱・疼痛などの症状が出ますので春は避けるようにしましょう。ちなみに「春先のアワビののツノワタ(内臓)を食べさせるとネコの耳が落ちる」という言い伝えもこれに起因しているそうですよ。

妊娠中のアワビ摂取も注意

アワビの俗信・民間療法で「目がきれいな子供が生まれる」など目に関係するものが多いのも特徴ですね。これは漢方の“肝腎を良くするものは目に良い”というような考え方に起因していたそうで、かつて漢方ではアワビの貝殻を乾燥し粉末化したものを「石決明(セッケツメイ)」と呼び、肝機能の改善や目を良くする働きがあると考えていたそうです。

現在は「石決明」は用いられていませんが、妊娠中にアワビを食べると生まれてくる子は眼病にかからない・目が澄んだ子供になるなどアワビは“目”に関する俗信が多い食材。地域によっては妊娠5ヶ月の戌の日にアワビの肝を食べると目が綺麗な子が産まれる」という伝承もあります。タウリンが豊富だから胎児の網膜形成などに役立つのではないかという説もありますが、春先のアワビの肝はもちろんのこと、体調や鮮度によって当たってしまうなどの危険性もありますから無理をしてまで食べないようにしましょう。また妊娠中の栄養補給として役立つ成分も含まれていますが、アワビの身・肝共にヨウ素を含んでいますから食べ過ぎは厳禁です。