アンズ/アプリコットとその栄養成分・効果効能
|カロテンが豊富! 便秘や貧血が気になる方にも

食べ物辞典:アンズ

甘酸っぱいドライフルーツとして、色と香りを活かしたジャムや果実酒としても親しまれているアンズ(アプリコット)。生だと酸っぱい・味がしないという印象を持たれがちですが、最近は糖度が高く酸味と甘味を楽しめる品種も作られています。栄養価としてはβ-カロテンが緑黄色野菜と同等以上に含まれていることが特徵で、特にドライフルーツの場合であればβ-カロテンや食物繊維の手軽な補給源として役立ってくれます。便秘やむくみ予防・アンチエイジングサポートにも期待されるアンズについて、歴史や栄養効果を詳しくご紹介します。

アンズ/アプリコットのイメージ画像:食べ物辞典トップ用

和名:あんず(杏子)
英語:Apricot(アプリコット)

あんず(アプリコット)のプロフイール

アンズ・アプリコットとは

少しフローラルっぽさも感じされる、独特の甘い芳香を持つアンズ。生で果物としてそのまま食べるものと言うよりは、ドライフルーツやアプリコットジャム・シロップ漬けなどの加工されたものを口にする機会が多いかも知れません。見た目にも鮮やかな“杏色”と呼ばれるベージュがかったオレンジ色が映えることもあって、近年はフルールタルトなどの洋菓子系によく利用されていますね。甘い香りと綺麗な色を活かした「杏露酒(シンロチュウ)」など、果実酒の印象が強い方もいらっしゃるかも知れませんね。余談ですが中国酒と思われがちな「杏露酒」は日本の会社であるキリングループ永昌源社さんのオリジナル商品です。

アンズに戻りますと、植物としてはバラ科サクラ属に分類される果樹で、学名はPrunus armeniaca。属名からも想像できるようにプラムプルーンや梅などと近い植物で、バラ科全体として見ればアーモンドや桃など私達の食生活でもお馴染みの食べ物が多く含まれています。特に木や花の形は梅によく似ており、英語では梅のことを“Japanese apricot”と表現する場合もあります。逆に日本ではアンズは英名のアプリコット(Apricot)とも呼ばれていますが、アンズは酸味が強いイメージがあるのに対して、アプリコットは甘く生のままでも美味しく頂けることからアンズ=アプリコットに違和感を感じることもあるのではないでしょうか。これは東西で品種が別れており、東洋系品種は酸味が強い・ヨーロッパ系品種(西洋品種)は甘みが強いものが多くなっているためです。

東洋系アンズがフルーツとして親しみやすいとは言えないお味なのは、かつての中国や日本でアンズは果物としてよりも種子の中にある仁“杏仁(キョウニン)”を薬として利用する方がポピュラーだったためと考えられています。中国では薬用として利用される苦みの強い苦杏仁(北杏仁)と、生食用の苦みの弱い甜杏仁(甜杏仁)の二種類に大きく分けられているのだとか。日本で親しまれている中華スイーツの杏仁豆腐も元々は薬膳料理で、咳止めなどの効能があるものの苦味が強い苦杏仁を食べやすくするために考案されたと言われています。ただし現在苦杏仁は食品としての使用が禁止されていますし、アンズの種に含まれているアミグダリンという青酸配糖体には危険もあることから、市販されている杏仁豆腐の大半は杏仁と似た香りのアーモンドエッセンスや香料が使われています。

アンズと言うとシロップ漬けやジャム、ドライフルーツとして口にするイメージがありますが、アプリコットと呼ばれる西洋系の品種のハーコットやゴールドコットなどは糖度が高く生でも美味しくいただけます。日本でも酸味はあるものの生食でも美味しい信山丸・酸味が弱い信州大実などの品種もありますし、近年はより生で美味しく食べられるおひさまコット・ニコニコットという交配種も誕生しています。アンズはある程度熟したものを収穫して販売こと・日持ちがしないことから旬は6月下旬~7月頃と短期間。痛みやすい関係もあって生での流通量もあまり多くはありませんが、見かけた際にはジューシーで甘酸っぱい味を楽しんでみては如何でしょうか。

アンズの歴史

アンズはかつてアルメニアなどアジア西部原産と考えられており、原産地にちなんで“Prmus armeniaca(アルメニアのプラム)”という学名が付けられました。しかし近年は中国原産説が有力視されつつあり、原産地については断定されていません。原産地説のある中国では2000~3000年前からアンズの栽培が行われていたと伝えられ、古代中国では杏・・スモモ・なつめを合わせて“五果”と呼んで大切にしていたことも分かっています。ただし当時の中国でアンズは果物としてよりも生薬用として種子(杏仁)の採取が主だったという見解もあり、中国最古の薬学書とされる『神農本草経』などでも杏仁についての記載が見られます。

アンズは中国から紀元前のうちにペルシアへと伝えられ、乾燥アンズは交易商品として用いられていました。欧米ではアレキサンダー大王がギリシアに持ち帰った果物であるという逸話もあり、少なくとも1世紀までにはギリシアやローマにもアンズは伝わっていたと考えられています。中国を中心とした東洋系品種とは異なり、ヨーロッパでは果物としての甘さ・美味しさを重要視して品種改良が行われたことで西洋系品種は甘みの強いものへと変化していったと考えられています。アンズ(アプリコット)は14世紀にイギリスへ、18世紀にはアメリカへと持ち込まれ西海岸を中心に栽培が行われるようになりました。現在ではカリフォルニア州が世界的な産地となっています。

原産地を挟んで反対側、日本にアンズが伝来した時期については分かっていません。平安期に書かれた『本朝和名』や『倭名類聚鈔』にはアンズを指すと思われる“加良毛毛(唐桃)”という記述が見られることから900年頃には日本に存在していたと考えられますし、それよりも古い奈良時代頃に梅と共に日本に伝えられたのではという説もあります。どちらにせよ1000年以上も日本に定着している、歴史ある果樹と言えますね。ちなみにアンズという呼び名が文献に登場するのは、1612年に記された林道春の『多識編』が最初なのだそうです。

中国では生薬としての利用に重点が置かれていたと考えられるのと同じく、日本にもアンズは漢方薬(生薬)として伝えられた可能性が高いでしょう。酸っぱい、もしくはあまり味のしない果実については注目せず、江戸時代に入るまではもっぱら種子(杏仁)のみを活用していたという説が有力です。日本人がアンズの果実も活用するようになったことが分かるのは1800年頃、江戸で「杏干」としてドライフルーツのような形で販売されて以降と言われています。明治になると欧米からヨーロッパ系品種が導入されたこと・砂糖の使用が広がったことでドライフルーツやジャムなど加工品としての使用が広がっていきました。

あんず(アプリコット)の栄養成分・効果について

栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)

アンズはβ-カロテンとビタミンEを多く含む果物で、鉄分やカリウムなどのミネラルや食物繊維も果物としては豊富な部類です。クエン酸などの有機酸を含んでおり、生100gあたり36kcalとカロリーも低め。より手軽に栄養を補給できる干しアンズは栄養源として健康サポートにも一役買ってくれるドライフルーツとしても親しまれていますが、乾燥状態であれば糖質量が多くなり100gあたり288kcalとカロリーも高めのため食べ過ぎには注意が必要です。

アプリコットスイーツイメージ

アンズの効果効能、その根拠・理由とは?

エネルギー補給・疲労回復に

独特の酸味があることから品種によっては生食に適さないとも言われるアンズですが、この酸味は主にクエン酸やリンゴ酸などの有機酸によるものです。こうした有機酸類はクエン酸回路(TCAサイクル)に関与して代謝を促す働きが期待されていること、ブドウ糖や果糖など体内に吸収されやすい単糖類の補給にも役立つことから、プラムはエネルギー補給や疲労回復促進に適した果物であると考えられています。

ちなみにリンゴ酸やクエン酸の補給が疲労回復に繋がると言われているのは、私達の体内で行なわれている代謝(TCAサイクル/クエン酸回路)の中で使われる成分でもあるため。このためクエン酸などの有機酸を外側から補うことで代謝の活発化を促し、エネルギーが生み出される・運動後の疲労感を軽減することに繋がると考えられています。ただしクエン酸の疲労回復効果については信頼できる十分なデータがないこと・摂取しても疲労回復効果はないという報告も多くあることから、クエン酸に疲労回復効果は無いという見解が主流となっています。

夏バテ・むくみ対策に

アンズに含まれているクエン酸などの有機酸は胃液の分泌を促すことで、食欲を高める・消化を助ける働きもあります。またアンズはカリウムが多く含まれている果物でもあり、干しあんず2個(15g)を食べるだけでも195mgと、生のイチゴマンゴーを100g食べる以上のカリウムが摂取できます。夏場は汗などでカリウムが失われることも夏バテの原因と考えられていますから、消化機能のサポートと相乗して夏バテ時の栄養補給・夏バテ状態からの回復をサポートに役立ってくれる可能性があります。

そのほかにカリウムはナトリウムと競合して細胞内外の浸透圧を調整する働きがあります。ナトリウム量が多い場合はそれを排出させる働きもあるため、付随して水分排泄を促す=むくみ緩和に役立つと考えられているミネラル。カリウム補給源として役立つアンズや干しアンズを朝食やおやつとして取り入れることで、むくみ予防や緩和のサポートにも繋がるでしょう。

便秘予防・改善サポートに

アンズは生100gあたり1.6gと果物類の中では食物繊維が多い部類。乾燥100gあたり9.8gなのでドライフルーツとして取り入れる場合には2個(15g)で1.47g、大体バナナ1.5本分くらいの食物繊維を補給出来る計算になります。食物繊維の比率から見ても水溶性食物繊維4.3g ・不溶性食物繊維5.5gと水溶性食物繊維の量が多いことも特徵。このためバランスの良い食物繊維補給源として、便秘改善やお腹の調子を整える手助けをしてくれるでしょう。

セルロースなどの不溶性食物繊維類は便の量を増やし、腸を刺激する事で蠕動運動を促してくれます。ペクチンなどの水溶性食物繊維は水に溶けてゲル化することで便の硬さを保持してくれることから、合わせて穏やかな緩下剤として働くと考えられています。また水溶性食物繊維は腸内で善玉菌のエサになり善玉菌活性化を助けることから、腸内環境を整える手助けも期待できます。腸内フローラのバランスが良くなることからも、お腹の調子が乱れにくくなることに繋がる可能性もあるでしょう。便秘の時は生で、下痢の時は揚げたアンズを食べると良いという説もあるようです。

貧血・冷え性予防に

アンズは果物の中で鉄分含有量が多い部類に属します。気軽に食べられるドライフルーツの場合であれば鉄分含有量は100gあたり2.3gとレーズンと同じくらい、貧血に良いと言われている乾燥プルーンの2倍以上の鉄分を含んでいます。鉄分の吸収・利用をサポートしてくれる銅やクエン酸、赤血球合成に関わる亜鉛などのミネラルも含まれていることから貧血予防に役立つ果物としても取り入れられています。乾燥アンズを食べるだけで鉄分を補えるというわけではありませんが、間食などに取り入れると不足しがちな鉄分摂取をカバーしてくれる存在と言えます。

鉄分の補給で貧血が緩和されることに加え、クエン酸はキレート作用によってミネラルの吸収を助ける働きや、体をアルカリ性にすることで血液サラサラ効果などもあると考えられています。豊富な食物繊維は腸内フローラの活性化による代謝向上に繋がりますから、相乗して新陳代謝を高める=熱生成量アップにも役立つと考えられています。ちなみに漢方・薬膳の考え方でも杏は体を温める性質「温性」に分類されています。果物は体を冷やすと言われるものが多いから心配…という方でも、気兼ねなく取り入れられるのではないでしょうか。

抗酸化・生活習慣病予防

アンズの栄養成分の中で際立っているのがβ-カロテン。生アンズ100gあたりのβ-カロテン量は1400μgとの3倍以上の量で、乾燥アンズの場合は4800μgと更に多くなります。ドライフルーツを100g食べるというのはあまり現実的ではありませんが、干しあんず2個(15g)であってもβ-カロテン量は720μgになりますから、生状態での柿150g・オレンジ600g以上のβ-カロテンが補給できるという計算になりますね。

β-カロテンは抗酸化作用を持つカロテノイドの一種。活性酸素は酸素を利用し代謝活動において自然にも発生する物質で、体内に侵入した細菌や異物の無害化など私達の身体を守る働きも持っています。しかし活性酸素は増えすぎると自身の細胞や血管などを酸化させ、様々な病気の発症リスクを高めたり老化を促進するなどの悪影響もあります。アンズはβ-カロテン以外に体内での保持時間が長いことが報告されているβ-クリプトキサンチン、ビタミンEなどの抗酸化物質も含んでいます。このためアンチエイジングフルーツの一つとして、若々しさや健康維持をサポートしてくれると考えられます。

また活性酸素は細胞の酸化・劣性を引き起こして老化を進行させるだけではなく、血中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を酸化させて動脈硬化のリスクを高めるなど生活習慣病との関係も注目されています。アンズにはナトリウム排出を促すことで血圧が上がるのを抑える働きのあるカリウムも含んでいることからら合わせて高血圧や心疾患予防に、水溶性食物繊維の補給源としてコレステロール対策にも期待されています。

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免疫力・視機能サポートにも

β-カロテンなどのカロテノイドは抗酸化物質として働くほか、体内で必要に応じてビタミンAに変換されるビタミンA前駆体でもあります。ビタミンAは皮膚や粘膜の維持にも関与し、喉や鼻などの粘膜を保護・補強することで細菌から体を守ってくれる働きもあります。呼吸器粘膜が強化されることで風邪などのウィルスが侵入するのを抑制する働きが期待できますし、抗酸化作用も免疫機能を正常に保つことに繋がります。東洋医学ではアンズには去痰・鎮咳など喉の不快感を改善する果物として紹介されることがあるのも、βカロテンによる粘膜保護作用などの働きが大きいと考えられます。

またビタミンAは網膜で光を感知するロドプシンの生成にも利用されおり、不足すると網膜の光に対する反応を鈍化させてしまうことが分かっています。このためビタミンAへと変換されるβ-カロテンやβ-クリプトキサンチンの摂取は夜盲症の予防や改善効果が期待されていますし、ビタミンAは目の粘膜を保持して乾燥を防いでくれるためドライアイ対策にも役立つと考えられています。ロドプシンの再合成に関わることから、不足なく補うことで疲れ目・かすみ目の予防につながる可能性もあります。

美肌保持・肌老化予防に

アンズに豊富に含まれているβ-カロテンは体内でビタミンAに変換されることで、皮膚の保護や強化・新陳代謝促進などにも関与しています。ビタミンAは不足すると乾燥や角質化・ニキビやイボが出来やすくなる事も指摘されていますから、美肌・美髪を維持するためにしっかり補給したい栄養素の一つと言えます。ビタミンAに変換されなかったものは抗酸化物質として働きますから、肌細胞の酸化によるシミ・シワ、ストレス性の肌荒れ予防にも繋がります。肌のアンチエイジングや肌荒れ予防のサポートにも期待できますね。

そのほかにクエン酸によるミネラル吸収促進、水溶性食物繊維による腸内フローラ改善なども、肌に必要な栄養成分の不足を無くすことから美肌維持に繋がります。貧血予防や血流改善を助けることで、血行不良によるターンオーバーの乱れや肌のくすみ改善を手助けしてくれる可能性もあります。アンズは生・ドライ共にビタミンCはほとんど含まれていませんので、ビタミンCが豊富なものと合わせて摂取するとより効果的です。

目的別、あんずのおすすめ食べ合わせ

あんず(アプリコット)の食べ方・注意点

日本では流通しているアンズはほとんどドライフルーツほか加工されたものですが、時期によっては生のものを入手することも出来ます。生食でも美味しく頂ける品種であればぜひ食べてみてください。果皮周辺は酸味が強いので、メリハリのある味が好きな方は皮ごと・酸味が苦手な方は皮を剥いて食べるのがオススメです。ただし傷みやすいので量が多い場合はジャムやシロップ漬けにしたり、焼酎やホワイトリカーなどに漬けて果実酒を作るなどしてみてください。あんず酒は薬用酒として冷え性や虚弱体質の改善に良いと言われていますよ。

アンズの注意点

アンズの種子である「杏仁」にはアミグダリンという青酸配糖体が含まれています。
アミグダリンの働きからガン予防に良い・鎮痛効果があるなどと紹介されることもありますが、アミグダリンは胃で青酸を発生し最悪の場合は死に至る危険性もある物質です。自己判断で種の中の仁を取り出して食べるのは止めましょう。また未成熟の生の果実にも微量の青酸配糖体が含まれているため成熟したものを食べるようにし、食べ過ぎには注意してください。

参考元:8 Amazing Benefits of Apricot (khubani): The Nutritional Heavyweight Among Fruitsクエン酸は疲労回復に効果なし?嘘かどうかスポーツ栄養士が考察してみた