食べ物辞典:銀鱈
クセのない繊細な風味を持つ白身魚で、かつ脂もしっかりと乗っている銀鱈。西京焼きをはじめ焼く・煮る・揚げるとオールマイティーに活躍するお魚で、かつては安値の大衆魚でしたが、今や人気でお値段も上がっていますね。脂質が多いことから避けられる一面もありますが、オメガ3系脂肪酸を中心に不飽和脂肪酸を多く含むことから健康メリットも期待されていますよ。100gあたり232kcalとカロリーは高めですがGI値が低いこと・ビタミンA(レチノール)を多く含むことも特徴。そんな銀鱈の歴史や栄養効果について詳しくご紹介します。
和名:ギンダラ(銀鱈)
英語:sablefish/black cod
銀鱈(ギンダラ)のプロフイール
銀鱈とは
銀だらはタラ(真鱈)よりも脂が乗っていて、焼き魚や煮付けにしてもふっくら仕上がる最大の特徴。魚嫌いのお子さんであっても、焼いた銀たらは食べてくれるということもあるかもしれません。大人でもシンプルに焼くなどの料理法であれば、パサついてしまいがちなタラよりも銀ダラの方が好きという方も多いのではないでしょうか。西京焼きなどの漬け焼き・煮付け・鍋などの和食系はもちろんのこと、ソテーやフライなどの調理法・洋食系レシピでもほぼ失敗なく使える魚ですね。
そんな銀だらは“鱈(たら)”が付き、英語でも「black cod(黒い鱈)」と呼ばれていますが、鱈の仲間というわけではありません。タラというのは分類上はタラ目タラ科のうちタラ亜科に属す魚に使われますが、銀だらはカサゴ目ギンダラ科に属す大型深海魚。外見が似ていることから“鱈”が付けられていますが、生物としてはタラよりもカサゴやホッケに近い存在ですね。最も近い仲間としては“アブラボウズ”と呼ばれる魚がいますが、こちらは脂肪分が多すぎて食用に適さないと言われています。
銀たらもまた、かつては脂っぽい魚として食用魚としての評価が低く、マダラの代用品として安値で取引されていた歴史があります。銀鱈という名前も見た目がタラに似ていたからという以外に、あやかり鯛と同じく販売しやすいよう親しみのある名前をつけたという説もあります。販売当初は苦労があったことが想像できるエピソードでもありますね。年齢などによっては安価な代用魚という印象を持たれている方もいるようですが、現在の銀だらはそこまで安価な魚ではありません。場合によっては真鱈よりも高いこともあるほど。
また近年はカナダ産の「銀雫(きらり)」などの養殖ブランド魚も登場し、刺し身や寿司ネタなど生でも食べられるようになりました。銀ダラの刺し身はその濃厚さから“白身魚の大トロ”とも称されています。流通量はかなり少ないですが、食べて病み付きになる方も多いようですよ。
銀鱈の歴史
銀ダラの分布域は北大西洋で、東北や北海道などにも生息しています。しかし分布密度には大きな差があり、ほとんどはアラスカからカナダ沖合で獲られています。北アメリカに先住していた人々が食べていたかは定かではありませんが、北米での漁業は19世紀後半からと言われていますので世界的に銀ダラの存在が知られた・認められたのはごく最近のことですね。英名としてはSablefishが一般的ですが、“Black Cod(黒いタラ)”とも呼ばれていますからヨーロッパ系移民もタラ文化ありきで銀ダラと遭遇したと考えられます。
日本でも1930年台前半から北洋底引き網漁が行われていますが、銀ダラが日本で大量に流通するようになったのは1970年前後と言われています。日本では古くはマグロのトロなどが嫌がられていたとおり、脂肪分の多い魚というのは嫌われる傾向にありました。マダラの代用品感覚で持ち込まれたようですが、どうも当初は馴染みがなく脂っこい魚であるため好意的には受け入れられなかったようです。脂が乗っていたこと・現在ほど食品名の表示についてしっかりとした規定がなかったことから「ムツ」として提供されていたこともあるそう。
…とは言っても味の好みはそれぞれ。漁獲量規制が本格化するまでは大量に日本に持ち込まれていたため安価だったということもあり、銀鱈は漬け焼きやみりん干しなどにして家庭の食卓では親しまれていたよう。学校の給食メニューなどにも使われていたそうです。かつての日本人は脂の少ない魚を好む傾向がありましたが、昭和後期になるとマグロのトロなど濃厚な魚が持て囃されるように味覚も変化していきます。脂が乗ってジューシーで、かつお安かった銀だらは昭和の大衆魚と言えるかもしれませんね。
そうした食嗜好の変化が定着し銀だらの需要は高まったものの、1970年代頃になると漁獲量規制の導入が開始し漁獲性が減少します。その後には排他的経済水域の設定などもあり、日本に銀ダラ持ち込まれる量は減少していきます。加えて食のグローバル化の影響などもあって銀たらを求める国が増え、世界的に人気な魚ともなっています。かつて安値の大衆魚と言われた銀ダラの価格は今や4~6倍と言われるほど高騰し、マダラの値段を上回るほど。大衆魚ではなく、高級魚として数えられる場合もある存在となっています。
ちなみにギンダラと混同されやすい食用魚には“銀むつ(メロ/メロウ)”と呼ばれる魚がありました。こちらは南極周辺に生息するノトテニア科の大型深海魚で、標準和名をマジェランアイナメと言います。かつてメロは「銀ムツ」という名称で流通していましたが、ムツとは分類が異なることから消費者に混乱をもたらすとして2003年にJAS法で銀ムツという表示での販売が禁止された経緯のある魚。さらにムツという名前がつけられはいますが、元々は値の上がったギンダラの代用品として輸入されはじめたと言われています。そんなメロも水産資源の減少の影響・脂の乗った白身魚で偏見なく食べれば美味しいことが分かり、価格が上がっていますよ。
銀鱈(ギンダラ)の栄養成分・効果について
栄養成分含有量の参考元:日本食品標準成分表2015年版(七訂)
銀ダラは三大栄養素の中で脂質の比率が最も多く、100gあたりのカロリーも232kcalとやや高めです。栄養成分としてはレチノール含有量が高いことが特徴。他の魚類よりも際立って多いというわけではありませんが、ビタミンE・ビタミンD・ビタミンB12も豊富に含まれています。またビタミンB群、カリウムやマグネシウムなどのミネラル類も含まれていますから、脂ばかり多くて体に良くない魚ということはありません。
銀鱈の効果効能、その根拠・理由とは?
生活習慣病予防のサポートに
タラがほとんど脂質を含んでないのに対し、銀ダラは全体の約18%が脂質。脂質が多い魚であるので血圧・コレステロール・中性脂肪などが気になる方には適さないように思われがちですが、銀タラの脂質中にはオメガ3(n-3)系に分類される不飽和脂肪酸が含まれていることが注目されています。生100gあたりの含有量はDHA(ドコサヘキサエン酸)が290mg、EPA(エイコサペンタエン酸/IPA:イコサペンタエン酸とも)が480mgとされています。
こうしたオメガ3系脂肪酸は健康メリットが高い脂質として注目されている成分。EPAは血小板の凝集を抑制する働きや悪玉コレステロール・中性脂肪・血圧の降下作用などが見られたことが報告されており、血液サラサラ成分としてサプリメント等の健康食品にも配合されています。DHAに血液サラサラ効果があるのかについては意見が別れていますが、こちらも脳細胞の健康維持など健康メリットが期待されている成分ではあります。
加えて銀だらには活性酸素を抑える働き、抗酸化を持つビタミンEも含まれています。抗酸化作用によって過酸化脂質の生成を防ぐことからも、高血圧や動脈硬化の予防に繋がるでしょう。オメガ3以外の脂質でもオレイン酸を筆頭とした一価不飽和脂肪酸が多いこともあり、銀ダラは食べすぎなければ健康的な食材という見方が増えています。
体力アップ・ダイエットの手助けに
良くも悪くも脂質が多いことが注目される銀だらですが、全体重量のうち13%以上とタンパク質もしっかりと含まれています。アミノ酸も含まれていますから、体作りのサポートとしても役立ってくれる食材と言えます。またビタミンB群の含有量はさほど多くないものの、ビタミンB12は生100gあたり2.8μgと一日の摂取目安量を考えれば豊富。ビタミンB12は赤血球の合成に関わるだけではなく、たんぱく質の合成・修復にも必要な栄養素。
こうした栄養素の補給になることから、適切に取り入れれば銀だらも体作りをサポートしてくれる食材であると考えられます。また高脂質・高カロリーの部類ではありますが、炭水化物をほとんど含まず、GI値も40と魚類では最も低いグループ。脂質を避けている場合は低脂質なタラ(マダラ)の方が適していますが、運動中心のダイエットをしていたり、糖質制限ダイエット中の方であれば特に避ける必要は無いでしょう。
風邪予防・免疫力向上サポートに
銀ダラに含まれているビタミンの中で特出して多いといえるのがビタミンA(レチノール)で、生100gあたりの含有量は1500μgと鰻に次いで魚類トップクラスとなります。ビタミンAは皮膚や粘膜を構成する上皮細胞の形成・保持に必要な成分で、不足すると粘膜が乾燥し機能低下を起こします。このためビタミンAは粘膜を丈夫に保ち、呼吸器からのウィルス侵入を防ぐことで風邪予防に役立つ成分と考えられています。
加えて銀ダラには正常な機能をサポートする働きが期待できるビタミンとして注目されるビタミンDも含まれています。ビタミンDは免疫力を調整することで花粉症や喘息などのアレルギー症状効果が期待されていますし、摂取城が多いほどインフルエンザ発症率が低いという報告もなされています。そのほかEPA(エイコサペンタエン酸/IPA)にもアレルギー症状を緩和する働きが期待されていますから、合わせて免疫機能のサポートとして役立ってくれるでしょう。
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ドライアイ・疲れ目対策として
ビタミンAは粘膜の形成・保持に関わる成分であることからドライアイ対策としても役立つと考えられています。また目の網膜に存在する物質“ロドプシン”の主成分でもあり、分解されることで脳に情報を伝えた後にロドプシンが再合成される過程でもビタミンAが必要となります。このためビタミンAは夜盲症など暗いところでの視力低下・目の酷使による視力低下や眼精疲労の予防にも効果が期待されています。
また銀ダラは視神経の機能向上や目の疲労軽減効果が期待されるビタミンB12も100gあたり2.8μgと、魚類の中では少ないものの摂取基準量から見ると十分な量を含んでいます。ビタミンEも血行を促すことで目の疲れ・コリを緩和に役立ってくれるでしょう。ドライアイや目の疲れが気になる方は緑黄色野菜やアントシアニンを含む食材と組み合わせて食べるとより効果が期待できるでしょう。
肌荒れ・乾燥肌の予防にも
銀ダラに豊富に含まれているビタミンA(レチノール)は皮膚や粘膜を健康に保つ働きがあり、角質層に存在するNMF(天然保湿因子)の生成促進にも関わるため肌の潤い保持に役立つビタミンの一つとしても数えられています。際立って多いわけではありませんが、銀ダラには抗酸化ビタミンであり血行を促す働きもあるビタミンE・新陳代謝促進や肌荒れ予防に必要なビタミンB群なども含まれています。ビタミンEは抗酸化物質でもありますから、肌の老化予防にも効果が期待できますね。
細胞の回復や再生に必要となるオメガ3系脂肪酸やタンパク質(アミノ酸)の補給にもなりますし、ビタミンAも肌のバリア機能を高めてくれますから乾燥だけではなく肌荒れ全般の予防効果も期待できるでしょう。頭皮の乾燥による抜け毛やフケ予防にも役立ってくれる可能性もありますよ。
目的別、銀鱈のおすすめ食べ合わせ
銀鱈(ギンダラ)の選び方・食べ方・注意点
銀だらは魚類の中でも豊富にレチノールを含むことが特徴で、レチノール(ビタミンA)補給源として風邪予防や乾燥肌などの軽減にも効果が期待されています。しかし同じくビタミンAとして働くβ-カロテンとは異なり、レチノールは脂溶性ビタミンのため過剰症を起こす危険性があります。
一日の上限量2700μgを若干超えてしまってもその日限りであれば心配はないとされていますが、大量摂取はNGですし、過剰状態が継続する場合も危険があります。また妊娠中・授乳中の女性であれば奇形児のリスクが高くなることも指摘されていますから、食べ過ぎやサプリメントの併用には注意しましょう。
美味しい銀鱈の選び方・保存方法
銀だらは大きな魚なので、スーパーなどの量販店では一匹丸ごと販売されていることはありません。家庭で使う分であれば切り身になっているものを購入することが多いでしょう。このため魚の鮮度確認としてポピュラーな目の透明感・エラの色などはわかりません。そこで確認のポイントとされているのは皮(表皮)の色。
銀ダラは元々表皮が黒褐色の魚ですが、鮮度が落ちるほど皮が更に黒く変化していきます。このため選ぶ場合は皮の色がはっきりと黒いものを避け、いぶし銀のような銀色を選ぶと良いとされています。メタリック感のある皮の色で、かつ身(魚肉)部分に透明感と弾力がるものを購入します。身の色が濁ったような印象のものは避けたほうが無難。
また“ギンダラ(解凍)”として売られている切り身もありますが、買ってすぐに食べない場合は冷凍状態のものを買った方が無難。食べるタイミングに合わせて解凍した方が味が落ちません。